ストレスの多い現代社会。
日常的に怒りを感じる機会も多いかと思います。
その度に「こんなことでいちいち怒る自分は心が狭いのかな」と落ち込む人もいるかもしれません。
でも、実は感情は脳が作り出したものなのです。
感情は、生き物が生き延びるために生み出した機能です。
今回は怒りという感情がどのように生まれ、どのように機能するのかについて、科学的な観点から述べていきたいと思います。
怒りが生まれるプロセスを分かりやすく理解するために、動物に当てはめて考えてみましょう。
動物が怒りを感じるのは、敵を攻撃する時です。
この時、動物の脳内ではノルアドレナリンというホルモンが分泌されます。
ノルアドレナリンは神経を興奮させ、血圧や心拍数を上昇させる働きがあります。
そうすることで全身にスピーディーに血液が運ばれ、いわゆる「戦闘モード」に入るのです。
同様のことは、人間の体内でも起こります。
怒りを感じる時、全身の筋肉が震え、頭に血がのぼる感覚を感じる人も多いと思います。
これは、ノルアドレナリンの働きによるものです。
不安や恐怖といった感情に関係するのは、脳の偏桃体(へんとうたい)という部分です。
偏桃体は脳の一番中心部にある部位で、生命を維持する上で欠かせない場所となっています。
偏桃体の主な役割は「とっさに判断すること」です。
何かを見たり聞いたりしたときに、それがその人にとって危険なものか、それとも安全なものであるかを判断します。
その判断をもとに、危険なものであれば不快、安全なものであれば快という感情を引き起こします。
例えば森に一人でいる時、背後から「カサカサ」と物音がしたとします。
とっさに「クマだ!」と判断し「怖い」という感情が生まれれば、すぐさま命を守る行動と体勢をとることができます。
恐怖という感情は、身を守るために働く正常な機能です。
たとえそれが、クマではなく単なる風の仕業だったとしても、大した問題ではありません。
偏桃体にとっては、生き抜くための判断を素早く行うことが何よりも重要なのです。
怒りの発生に関係する偏桃体は、脳の「脳幹」という部分にあります。
これは脳の一番中心部にあり、生命を維持する機能を持ちます。
爬虫類の脳にも備わっている部分です。
一方で、怒りをコントロールするのは脳の「前頭前野」という部分です。
前頭前野は、人間の人間らしさをつかさどっています。
「脳の司令塔」とも呼ばれ、意志や創造性、判断、集中、抑制といった意識のコントロールを行います。
体調不良や寝不足、飲酒や薬物の影響などで前頭前野の働きが悪くなると、きちんとした判断が行えなくなってしまいます。
前頭前野は脳の中でも最も成長の遅い部分であり、20歳過ぎてからも発達することが知られています。
「キレやすい」人を時々見かけることもありますが、前頭前野が未発達である可能性もあります。
歳を取って怒りっぽくなる人が多いのも、脳の萎縮によって前頭前野の働きが弱まるためです。
怒りを感じることは、誰にでもあることです。
しかし腹が立ったからと言って、相手を攻撃するなど、怒りを表現してしまっては人間関係にひびが入ってしまいます。
そこで有効なのが、「6秒待つ」という方法です。
怒りを生み出す偏桃体は、目の前の現象に対していち早く反応することが役割でした。
一方で怒りをコントロールする前頭前野は、少し時間を置いてから働き始めます。
その時間が、6秒間と言われています。
カッとなってすぐに行動に出るのではなく、一旦ひと呼吸おくことが大切です。
会話中であれば、相手の言ったことを繰り返してみたり、咳をしたり、適当な相槌を打つなどして時間を稼ぎましょう。
会話中以外であれば、深呼吸を何度も行ったり、水を飲んだりすることも効果的です。
また、有酸素運動によって、前頭前野の働きが良くなることが判っています。
ストレスが溜まっている時など「最近少し怒りっぽいかな」と思ったら、ジョギング等で気分転換してみると良いかもしれません。
「怒り」という感情は、脳が身を守るために下した判断によるものです。
怒っている自分を責めたり、そのことで悩んだりしないようにしましょう。
もし怒りが湧いてきたら、その感情を紐解いてあげることが大切です。
「自分は今、何に怒っているのだろう?」
「なぜこの出来事に対して怒りが湧くのだろう?」
と感情の根本を探ると解決に向かいやすくもなります。
普段から、自分が感じていることに向き合ってみると良いでしょう。